ぼくが狂ったようにピアノを解体した理由とその理論

ピアノの思い出

「きょくにゃん、ピアノいらないかい?」

 そう母方の祖母から電話がかかってきたのは10年前だったか、15年前だったか記憶は定かではない。しかし、貧乏性でタダのものなら何でも貰いたがるぼくのことだから「ちょーだい!」と即答したことは覚えている。

 聞けば、祖母が引っ越すというので、母親の使っていたピアノを引き取ってくれればとのことだった。

 父親の知り合いにトラックを手配してもらって、郊外の母方の実家を訪ねて男ども何人かでようやく荷台に引っ張り上げた。これがまた200kg近くあるため重労働だったのだ。もちろん下ろすときも重労働。怪我に気をつけて、そろりそろりと自宅に運び入れ、置ける部屋もなかったので廊下に据え置かれた。

「やったなあ。ピアノがただで手に入ったなあ。これでぼくもピアノが弾けるようになるなあ」

 しかし、ピアノがただ手に入ったからといって、演奏するという習慣が簡単に身につくわけがなかった。最初のうちはきらきら星だとかそういう簡単なやつをやっていたが、その内ぼくは完全にピアノを持て余し、残念ながら母の形見のピアノは廊下の面積を悠々と圧迫するだけの存在となっていたのである。

 ところで、このピアノ、一般家庭においてあるようなアップライトピアノのような形をしていたが、少し変わり種のシロモノであった。

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アップライトピアノ

 その名も電気ピアノといい、普通アップライトピアノに入っているような響板が入っていない。ピアノというのは弦をハンマーで叩いて出た音を響板で共鳴させて大きい音が出る。しかし、この電気ピアノというやつは響板の代わりにアンプとスピーカー、磁気ピックアップが付いており、これらの電気部品で音の大小を調節できるという優れモノなのだ。

 今から50年ほど前、高度経済成長により一般家庭の所得が増え、家庭にピアノが普及した。豊かさの証だったが、1974年にピアノ騒音殺人事件が発生するなど、騒音問題への関心も高まっていた。そのため、この音量を調節できる電気ピアノがどうやら注目されたらしいのだ。

 ところが、取り回しやすい電子ピアノや電子キーボードが登場すると、見た目は普通のアップライトピアノと変わらなくごつい電気ピアノは淘汰されてしまった。

 なぜこうくどくどと電気ピアノの紹介をしたか。それは処分をしようとタケモトピアノなどのピアノ買取業者ではこの少し変わったピアノを引き取ってくれなかったからだ。電気ピアノは調律を必要とするのはアップライトピアノと同じだ。だが、決定的に違うのは電気部品を使っていることだ。プラグにコンセントを挿して電源を入れなければ音が大きくならない(一応電源を入れなくても音は鳴るが響板がないため響かない)。一般的なピアノとは相違点があり、また製造から40年近く経っているものが多く、電気部品の劣化が問題になる。そのため、電気ピアノは超マニア向けの商品で買い取ってもらうのも難しいという問題があったのだ。

ピアノを壊そう!

 ぼくは引き取って貰えないなら処分をしてもらおうと考えた。不用品回収業者に見積もりを頼んだが、10万円との試算を見せてもらい、目玉が飛び出てしまった。

 やっとれん!わかった!もう自分で解体してやる!!!!!!!!!!!!

 はずしてみた

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上前板を外したところ

調律をしやすくするために前側の板はたやすく外れるようになっているが

うわあこんなんなってんだあ

なんだこれは鍵盤とハンマーだけでこんなにあるのぉ(あたりまえ)

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下前板を外したところ

 これがこのピアノが普通のピアノではないことを示すアンプとスピーカーである。弦を張るための金属フレームも普通のピアノと比べると小さい(らしい)

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鍵盤を外したところ

鍵盤も簡単に外れる。

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金原姓の検印

 ふと鍵盤の裏を見ると「金原」の印。金原は静岡県遠州地方の苗字で、特に袋井市から磐田市浜松市にかけて激しく分布している苗字。江戸時代の遠州の庄屋にも見られる。このように苗字からも浜松市に本社を置くヤマハ製であることが明白であるとわかる。

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ハンマー

鍵盤をすべて取り外してハンマーを外していく。

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ハンマーを外していく

 ……え?

 ひとつひとつ金属フレームにネジ止めしてあるってまぢ……?

 これでだいぶつかれてしまった。

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音量調整ツマミ

 すべてのハンマーを取り外すと、弦を番線カッターで切っていく。このとき、弦が跳ねてきて怪我をしないように気をつけなければならない。何せ、音を出すために、ものすごい力で金属フレームに止めてあるのだ。切るたびに「バッチーン!」とものすごい音をたてて弾けていく。必ず長袖の服を着て、軍手を付けて、できれば保護メガネも着用してほしい。万が一目にあたったら大変だ。

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弦を止めるためのピン

お次に弦を止めるためのピンを取り外していく。これにはチューニングハンマーという一般的には調律に使う特殊な工具が必要となる(Amazonでポチった)

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チューニングハンマー

 これで一本一本ピンを取り外すと金属フレームがむき出しになる。この金属フレームがピアノで一番重たい部品で、100kgほどになる。運び出しを楽にするには、切断して小分けにしたほうが良い。ディスクグラインダーがあれば、それで切断してもいいが、火の粉が出るので室内ではやめたほうがいい。ぼくは鉄鋸で一日かけて3つに切断しました……。

 金属フレームさえ始末してしまえば、あとはネジを外してピアノのガワを分解していって、ノコギリで短く切って……。

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切断したピアノの板

はいこれでゴミとして処分できますね。

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手のことジグソー

 最初は手のこで切ってたんですけど普通にマメが出来て痛かったのでジグソーで切りました……。

 というわけで、ピアノの解体は素人でも意外と簡単なので、もしピアノの処分に困っている人は自分で解体することも検討してみてもいいかもしれない。ただ、時間はかかるし(休み休みで1ヶ月近くかかりました)、ゴミとして廃棄する手間もかかるのでそこもよく検討してほしい。もちろん大抵の人はピアノに思い入れがあるだろうから、まずは譲ったり買い取ってもらったりできる人や業者を探してみてね。

使った道具

    • チューニングハンマー(Amazonで1000円くらいのやつ)
    • プラスドライバー(殆どプラスネジで止まってる。できれば電動ドライバー)
    • マイナスドライバー(できれば大きいもの。接着剤で板が止まってる部分もあるので、マイナスドライバーを打ち込んで剥がしてもいい)
    • げんのう(ゴム槌とかで良い。マイナスドライバーを打ち込むために使う)
    • 鉄鋸(金属フレームを切断するのに使った。はずれないネジを切ってしまってもいい)
    • のこぎり(ピアノの木製板を切ってゴミ回収に出せるように切り揃えた。できればジグソーやレシプロソー)

 ゴミとして捨てる際にはお住まいの回収ルールに従ってくださいね。

 お粗末さまでした。