お空な苗字についてちょっとだけ考えてみた
空中なんて苗字がある。読みは「くうちゅう」じゃなくて、「そらなか」。広島県江田島市や、廿日市市にある珍しい苗字だ。
実は、空中に限らず広島県には「空」という字がつく苗字が多い。今、空の字のつく苗字の世帯数が多い方から10傑を挙げて、その苗字が最多軒数となる都道府県を調べてみると、
- 空閑(くが):福岡県で最多
- 空(そら):広島県で最多
- 大空(おおそら):山口県で最多
- 空田(そらだ):広島県で最多
- 空本(そらもと):広島県で最多
- 空井(そらい):広島県で最多
- 空野(そらの):広島県で最多
- 空山(そらやま):大阪府/奈良県で最多
- 中空(なかぞら):岡山県で最多
- 空久保(そらくぼ):広島県で最多
となった。10個の苗字の内、6個が広島県に多い苗字だ。
空のつく苗字で一番多い空閑は、九州北部から中部に多い「コガ」や「クガ」と読む苗字の一種だろう。コガ/クガ系の苗字で一番多いのは、古賀(こが)。これは福岡県と佐賀県で苗字軒数ベスト10に入っており、全国ランキングでも上位となっている。しかし、それ以外にも熊本県に多い古閑(こが)などコガ/クガ系の苗字は何種類か見られる。
コガ/クガ系の苗字の話は又いつかということで、空の字のつく苗字の話を続けよう。
これらの広島県に多い空の字のつく苗字は、何なのか。「現場百遍」「読書百遍」なんて言葉があるように、苗字の世界には「分布百遍」なんて言葉が…無い。無いけれど、苗字を知る上では「今現在の苗字の分布」を把握することが非常に重要だ。
そこで、広島県内での空のつく苗字が最多軒数となる市町村を調べると、
と、なった。空の字のつく苗字は広島県でも「呉市や江田島市」に多い。と分かる。そういえば、冒頭で挙げた空中姓も江田島市にある苗字だ。
このことから、これらの空の字がつく苗字は、呉市や、江田島市から発祥/発生したのではないかと考えられる。
苗字の8~9割は地名から発祥したと言われている。そこで、呉市や江田島市の大字地名を調べたが、空の字のつくものは見つけられなかった。呉市広町に大空山と言う小字があったが、他に空の字のつく小字があるのかはちょっとわからない。
「空」とは何を意味しているのだろう。森岡浩・編の「全国名字大辞典」には
「空」とは山の上など高い場所を指す。
―p411「空」の項目より
とあった。つまり、空は地形由来の苗字ということだ。ならば、空さんのみならず空田さんや、空本さん、空井さんなども同じように地形から来た苗字なのかもしれない。
最後に呉市・江田島市の頭に空の字がつく苗字を電話帳より挙げる。
呉市
- 空
- 空井
- 空垣内
- 空河内
- 空先
- 空下
- 空田
- 空谷
- 空野
- 空間
- 空元
- 空本
江田島市
- 空
- 空井
- 空尾
- 空口
- 空久保
- 空河内
- 空先
- 空下
- 空田
- 空中
- 空野
- 空本
- 空脇
この中で空下、空口などは、これらの苗字が「空」という地形を指す言葉から来たのではないかということを強く匂わせる。高いところの下や、高いところへ登る入口には人が住み着く。ちょうど山下、山口と言う苗字が生まれたのと同じように。
と、空を扱うなんて少々空々しかったかも知れないが、空の字のつく苗字の人は確かにたくさんいるのだ。