九州のコガ/クガ系の苗字についてちょっとだけ考えてみた

先ほど書いた記事「お空な苗字についてちょっとだけ考えてみた」では、空閑(くが)と言う苗字について触れた。この空閑という苗字は福岡県朝倉市から久留米市にかけて多い苗字だ。

ここで、似た響きの苗字が思い浮かぶ。古賀(こが)だ。この古賀という苗字は九州北部から熊本県にかけて非常に多く、福岡県・佐賀県では苗字軒数ベスト5位内に入っており、福岡県大川市柳川市大牟田市佐賀県鳥栖市三養基郡みやき町神埼市小城市杵島郡大町町で最多姓となっている。

「古賀」という地名もかなり多い。福岡県古賀市を筆頭に、福岡県朝倉市古賀、佐賀県多久市東多久町古賀、長崎県長崎市古賀町、福岡県筑紫野市古賀、福岡県柳川市古賀など枚挙にいとまがない。

また、熊本県には古閑(こが)と言う苗字がある。熊本県の北部に多く、熊本市では300世帯以上の、山鹿市では100世帯ほどの古閑さんが存在している。地名もこれまた多い。熊本県山鹿市古閑、熊本県熊本市北区植木町古閑、熊本県熊本市南区富合町古閑、熊本県上益城郡益城町古閑、熊本県下益城郡美里町古閑と、やはり枚挙にいとまがない。

このコガとか、クガとかいう言葉は何なのだろう。そのヒントは冒頭の空閑という苗字にあった。空閑地という言葉がある。使っていない土地、空き地のことだ。この空閑地を指す言葉が「クガ」や「コガ」だと言われている。しかし、空き地といってもただの空き地とは少々ニュアンスが異なり、「開拓されていない土地(荒地)」や「これから開拓される土地(荒地)」をコガ/クガといったようだ。

また、海に対して陸地のことを「クガ」といったことから、小高い土地を「クガ」「コガ」というようになったという説もある。

この コガ/クガという地名や苗字は別に九州北部だけにあるわけでもない。地名では、茨城県古河市だってそうだし、京都府京都市伏見区久我や愛知県小牧市古雅などもある。また、苗字では久我(くが)という苗字が千葉県いすみ市付近に多く分布しているし、公家の村上源氏嫡流・久我(こが)家もよく知られている。

だが、やはり九州北部のコガ/クガ系の苗字の多さは図抜けている。九州北部で見られるコガ/クガ系の苗字を福岡県・佐賀県長崎県熊本県での世帯数を合計した順に挙げると、

  1. 古賀(こが):福岡県南部・佐賀県に多い。
  2. 古閑(こが):熊本県北部に多い。
  3. 久家(くげ・くが):福岡県朝倉郡筑前町糸島市長崎県松浦市に多い。
    →福岡県では「くげ」、長崎県では「くが」と読むことが多い。福岡県糸島市志摩久家(くが)の地名あり。
  4. 空閑(くが):福岡県南部・佐賀県に多い。
  5. 久我(くが):福岡県西部・佐賀県に多い。
  6. 久賀(くが):福岡県に多い。
  7. 小賀(こが):福岡県田川郡川崎町にある。

となった(栃木県周辺の五箇(ごか)姓や群馬県の後閑(ごかん)姓がコガ/クガからの転訛とされることもあるので、九州にもコガ/クガからきた苗字が本当はまだあるかもしれないけど)。

また、「古賀」や「古閑」などを含む苗字として、

  • 北古賀(きたこが):佐賀県に多い。
  • 古賀野(こがの):長崎県に多い。
  • 中古賀(なかこが):長崎県に多い。
  • 内空閑/内古閑(うちこが/うちくが):熊本県に多い。肥後国山本郡の武将に内空閑氏があった。
  • 古閑原(こがはら):熊本県にある。

などが挙げられる。これらもコガ/クガ系の苗字の一種としていいだろう。

これらコガ/クガ系の苗字や地名がとりわけ九州北部で多い理由はよくわからない。今後もう少し調査してみようかなと思う。