「特定の市町村に集中する苗字を調査してみた」を解説してみた~関東地方&甲信地方編

特定の市町村に集中する苗字を調査してみた」、もうあれから2ヶ月たったんだね……。

というわけで「「特定の市町村に集中する苗字を調査してみた」を解説してみた~北海道&東北地方&新潟県編」に続き、今回は関東地方、甲信地方の市町村ごとに占有率が高い苗字を解説していきたいと思う。

「特定の市町村に集中する苗字を調査してみた」をチェックしながら見てね。凡例もそっちに書いてあるよ~。

関東地方

関東地方には日本の人口の3割ほどが集中しており、特に首都圏では人口の流入が甚だしい。伴って流入してきた苗字が多く、市町村に世帯数が極端に集中しているという苗字はそれほど多くない。その一方で、その土地に元々勢力を持っていた苗字はたしかにあり、それを見つけることは一種の醍醐味となっている。

全体的に鈴木が多く、群馬県を除いた全ての都県で最多姓である。

茨城県

県内最多の鈴木姓の世帯数が2位の佐藤姓の2倍近い。鈴木は全県に広く分布しているが、特に北茨城市から常陸太田市にかけて鈴木姓が非常に多く集中している。北茨城市では世帯数の9%以上が鈴木姓となっている。また、霞ケ浦周辺には比較的少ない。

特筆すべきは坂東市の倉持姓だろう。坂東市には日本の倉持さんの内、20%弱が集中している。倉持は茨城県、栃木県、埼玉県、千葉県の県境付近に集中している苗字。

以下に市町村の総世帯の占有率が3%を超え、5%未満の苗字を挙げる。

栃木県

市町村ごとに見ていくと、突出した占有率が見られるのは塩谷町の斎藤姓(占有率12%)くらい。人口規模の似ている群馬県と比べると明らかに少ないが、群馬県では面積の小さな市町村が残っているのに比べて、栃木県では大きな面積をもつ市町村が多いということが関係有るかもしれない。

全県的に多いのは鈴木や渡辺。佐藤は那須烏山市那珂川町付近の東部に集中している。芳賀郡佐野市足利市付近には小林が多い。

以下に占有率3%以上5%未満の苗字を挙げる。

群馬県

群馬県では高橋が最多姓となっており、関東地方では唯一鈴木以外の苗字が最多姓となっている。高橋は全県的に分布しているが、館林市邑楽郡千代田町を除く)付近や吾妻郡高山村、嬬恋村甘楽郡南牧村ではそれほど多く見られない。鈴木は群馬県では少なく(といっても県ランキング6位)、県内で一番鈴木姓の占有率が高い利根郡みなかみ町でも2.5%ほどの占有率しか無い(県全体では0.9%ほど)。

人口規模の似ている栃木県と比べると、群馬県は面積の小さな市町村が残っており、突出した占有率をもつ苗字も多く見られる。特に多野郡上野村では人口の27%ほどが黒沢/黒澤姓で占められており、利根郡片品村の星野(24.5%)、多野郡神流町の新井(15.3%)、吾妻郡嬬恋村の黒岩(13.3%)、甘楽郡南牧村の市川(11.4%)なども町村での占有率が10%を超えている。

県南部から埼玉県北部にかけては新井姓が多く分布している。

以下は占有率3.5%以上5%未満の苗字である。

埼玉県

秩父地方を除き、市町村で高い占有率をもつ苗字は見当たらない。

県南部では鈴木や佐藤が多く、県北部では新井や小林が多い。

これについては1983年に出版された埼玉県の郷土史家・大澤俊吉の著書「埼玉の苗字」に興味深い記述がある。

(前略)鈴木・佐藤ラインと、新井・小林ラインの接点があるように思え、昭和五十五年版(引用者注:昭和五十五年版電話帳)でその接点のみを求めてみたところ、ほぼ北東の栗橋、南西の飯能を結ぶ線で接点が求められるように思った。そこで、その線で、県南(四一市町)、県北(五一市町村)の二枚のカードとして、悉皆調査をすることとした。

ところが、昭和五十七年版によって悉皆調査した所、県北カードに、川島、北本、鴻巣、菖蒲、騎西、加須、羽生、久喜の八市町が、新井圏を破り、鈴木がトップとなっており、鈴木の北上の現実を示していた。

大澤俊吉「埼玉の苗字」P5より引用

鈴木姓がどんどんと北部へ流入しているというのだ。

「埼玉の苗字」では埼玉県の世帯数上位の苗字の市町村別の世帯数が掲載されているが、「埼玉の苗字」で新井・小林圏とされた吉見町、熊谷市妻沼町と合併)、鳩山町ときがわ町都幾川村玉川村が合併)、小川町、寄居町などでは写録宝夢巣ver.15の世帯数のほうが多かった。電話帳の掲載数は年々減少しているが、逆に増えるというのは鈴木ラインが更に北上していることを示しているのかもしれない。

秩父地方では鈴木が極端に少なく、東秩父村を除きすべての市町村で鈴木姓の占有率が1%を下回っている。

以下は占有率3%以上5%未満の苗字である。

千葉県

東京都心に近い東葛地方や千葉市付近では占有率の高い苗字は見られないが、その他の地域では占有率の高い苗字もしばしばみられる。

千葉県は関東地方で一番鈴木姓の占有率が高い県になっており、全県的に分布している。特に香取郡から山武郡にかけてと、袖ケ浦市勝浦市以南の地域(概ね南総地方)で占有率が高く、館山市では7.6%という高い占有率となっている。

その他、夷隅地方付近の吉野や東庄町旭市匝瑳市にかけての林、旭市から山武市にかけての伊藤などが目立って高い占有率となっていた。

以下は占有率3%以上5%未満の苗字である。

東京都

首都であり、人口の流入が甚だしい。23区内、市部で占有率が3%を超える苗字はなく、各地の苗字が流入している実態を感じさせる。

23区では全ての区で鈴木が最多姓であり、一番占有率が高いのは足立区の2.4%であった。

市部では東京都に全国の3割以上が分布している苗字、すなわち東京都特有の苗字もランキング10位以内に入っていることが多いが、どの苗字も占有率5%を超えることはなかった。

以下に各市のランキング10位以内に入っている東京都土着の苗字と、その市町村での占有率を挙げる。

一方、人口の少ない郡部や島嶼部では占有率の高い苗字が多く見られた。

以下は占有率4%以上5%未満の苗字である。

神奈川県

足柄地方、三浦半島を除くと際立って高い占有率を持つ苗字は見当たらない。川崎市横浜市の各区では占有率3%以上の苗字が無く、横浜市中区、南区の鈴木姓、川崎市幸区の佐藤姓の占有率2.4%が最も高い数値だった。

三浦半島で鈴木が目立ち、相模原市山北町にかけてでは佐藤が目立つ。また、秦野市以西の地域では高橋が、高い占有率を持っている。

足柄上郡では瀬戸の占有率が高い。日本全国の瀬戸さんの内、18%ほどが神奈川県にあり、神奈川県は瀬戸さんの世帯数が最も多い県になっている。

以下は占有率3%以上5%未満の苗字である。

甲信地方

甲信地方(山梨県、長野県)は山がちな地形であり、独特の苗字が多く分布している。人口の少ない町村も多く残り、高い占有率を持つ苗字も珍しくない。

山梨県

地域ごとに多数姓がはっきりしている。南巨摩郡では望月が非常に多く、特に早川町では42%以上の凄まじい占有率であり、現在の日本の市町村ごとに見ていった場合、最も高い占有率を持つ苗字となっている。身延町、南部町でも占有率10%を超える。

南都留郡道志村付近では佐藤姓が非常に多く、道志村での佐藤姓の占有率は29.1%となった。道志村は古くより神奈川県側との結びつきが深く、隣接する神奈川県相模原市緑区足柄上郡山北町などでも佐藤姓の占有率が高い。

富士吉田市付近の南都留郡では渡辺が非常に多い。富士吉田市忍野村富士河口湖町鳴沢村西桂町では占有率10%を超えており、鳴沢村では29.3%というこれまた高い占有率。西八代郡市川三郷町から南巨摩郡南部町にかけてでも渡辺姓の占有率は高く、渡辺は山梨県で最多姓となっている。

県内2位の小林姓は県内全域に広く分布しているが、鳴沢村では占有率13.3%という高い占有率。北杜市韮崎市南アルプス市にかけてでは清水姓が最多であるが、占有率5%は超えなかった。

以下は占有率4%以上5%未満の苗字である。

長野県

長野県は日本の都道府県の中で4位の面積を持ち、更に市町村の数も日本の都道府県で2番目に多い。宮沢、柳沢、西沢など「○沢」という苗字が多く分布しており、苗字の分布も個性的である。

長野県で最も世帯数が多い苗字は小林。2位の田中姓の2.5倍以上の数があり、小林さんの世帯数、占有率は日本の都道府県で一番高い。県内全域に分布するが、特に北信地方東信地方諏訪郡富士見町付近に多い。諏訪郡富士見町では10.8%の占有率を持つ。

また、佐久地方では井出姓が目立った。北佐久郡ではそれほど多くはないが佐久市から南佐久郡にかけて非常に集中しており、北相木村では26.1%の極めて高い占有率となっている。小海町、南牧村でも占有率10%超え。

県内世帯数4位の丸山姓は飯山市から松本市にかけて帯状に分布している。飯山市白馬村生坂村安曇野市で占有率が高い。

伊那地方や木曽地方では原が集中している地域が多い。下伊那郡清内路村(現・阿智村)は村内の80%を桜井姓と原姓で占めることで知られていたが、合併して阿智村となってしまった。しかし、阿智村となった現在でも原姓は村内の最多姓で占有率11.5%を誇る。

下伊那郡天龍村付近に多い村松姓は隣接する静岡県遠州地方や愛知県北設楽郡にも多く分布している。売木村では松村が占有率27.1%で非常に高いが、村松も7%と高い。土地の人は紛らわしかったりしないのだろうかと要らぬ心配をしてしまう。


ところで占有率調べるのに一番苦労したのが長野県でした。市町村多いんだもん……。

以下は占有率4%以上5%未満の苗字である。

参考文献

以下はこの記事を書くにあたって参考にした書籍である。どれも良書なのでぜひ買ってね!!もしくは図書館とかで借りて読んでね!!

  • 笹部武安「信州の苗字」(郷土出版社)
  • 大澤俊吉「埼玉の苗字」(さきたま出版会)