「特定の市町村に集中する苗字を調査してみた」を解説してみた~北海道&東北地方&新潟県編

前回の記事、「特定の市町村に集中する苗字を調査してみた」には予想外の反響があり、チキンな私は戦々兢々としている。

なお、調査に用いたのは苗字の分布調査でお馴染みの日本ソフト販売の「写録宝夢巣」という電子電話帳ソフトのバージョン15である。市町村内の苗字の占有率(写録宝夢巣では「密度」という用語)が分かるシロモノである。

現在はバージョン17が発売中であるので、興味を持った人は購入するといいだろう。

また、日本ソフト販売は「姓名分布&姓名ランキング」というサイトも運営しているので気になった人はこちらで調べてみるのもいいだろう。

写録宝夢巣の宣伝はこの辺にしておいて、今回は前回の記事について突っ込んだ解説というか補足というか蛇足をしていきたいと思う。

(※ところで「××県にはもっと○○っていう苗字が多いはずだ!」というコメントをちらほら頂いたが、前回の記事は「特定の市町村に極めて集中している苗字をまとめた」というのが趣旨であるので、「××県に多い苗字をあつめた」ものではない。それを知りたい人はニコニコ大百科の「日本の苗字分布」という記事を見て欲しい。今回、市町村における占有率5%を超える苗字が無かった府県にも解説をつけていくので気長に待っていて欲しい)

北海道

北海道に住んでいる人々は、アイヌの人々を除き、日本各地からの移住者の子孫がほとんどである。

なので、苗字も特に移住者が多かった東北・北陸・四国各地方を中心に日本各地の苗字が集まっている。つまり、苗字の種類が多いのだ。

苗字の種類が多いということはそれだけ突出して集中する苗字も少ないということだ。

例を挙げると、例えば「佐藤」という苗字は、実は北海道が一番世帯数が多い。しかし、北海道全体の世帯数に対する比率(以下占有率という)は、3%ほどだ。道内でも「佐藤」が最多姓という市町村は多いが、多くが占有率1~4%台であった。以下に占有率4.5%以上5%未満の「惜しかった」町村を挙げる。

また、佐藤が最多姓でない市町村とその最多姓を挙げる
※それほど北海道で佐藤が最多でない自治体は珍しい。

(あくまでも写録宝夢巣のデータであるから、サンプルが違えばこれらの市町村で佐藤さんが最多となるかもしれない。特に由仁町音威子府村などでは2位の佐藤と1世帯差であるし、佐呂間町などでは2世帯差である)

28町村もあるやんけ!!と言われてしまいそうだが、待って欲しい。北海道の市町村の数は179市町村だ。そのうち151市町村で佐藤さんが一番多いとなると、「佐藤さんパネェっす!」となるのではないだろうか。

※余談であるが、雨竜郡雨竜町は佐藤姓の占有率が0.5%ほどで、北海道一佐藤さんの割合が低い自治体となっている。北海道で佐藤姓の占有率が1%を割る自治体は雨竜町留寿都村真狩村のみである。

東北地方

青森県を除いて全ての県で「佐藤」が世帯数最多となっている。岩手・宮城・秋田各県では「佐々木」も非常に多いし、岩手・宮城・秋田・山形各県では「高橋」も勢力を持っている。

東北地方では苗字の数が少なく、特定の苗字が突出して集中する傾向がある。

青森県

津軽地方には「工藤」姓が多く分布している。南部地方では工藤は比較的少なくなるが、むつ市や三八地域などでは多い。写録宝夢巣によれば、青森県全体における工藤さんの占有率は3.1%ほどである。また、青森県全体で最多の苗字となっており、全国の工藤さんの25%ほどが青森県にある。

青森県は西部の津軽地方と東部の南部地方で大きく苗字分布が違っている。例えば、津軽地方の弘前市で多い「三上」(弘前市での順位3位・占有率3.3%)は、南部地方の八戸市では占有率0.1%ほどだし、八戸市で多い「小笠原」(八戸市での順位9位・占有率1.1%)は弘前市では占有率0.2%ほどである。

特筆すべきは上北郡東北町の「蛯名」。東北町の総世帯の内、10.1%ほどを蛯名さんが占めている。全国の蛯名さんの内、37%程が東北町に存在している。なお、東津軽郡平内町や青森市では「蝦名」、青森市では「海老名」も多い。

以下、占有率4.5%以上5%未満の苗字を挙げる。

岩手県

岩手県で一番多い苗字は「佐藤」。2番めが「佐々木」。佐藤は岩手県の総世帯の5%程を占めており、九戸郡久慈市(この辺りでは佐藤は比較的少ない)を除く全県に分布している。特に東磐井郡藤沢町や一関市で占有率10%を超すなど南部に特に集中している。佐々木は岩手県の総世帯の4.9%ほど。下閉伊郡から一関市にかけての沿岸付近に特に集中している。

3番めに「高橋」が多い。高橋姓は秋田県との県境付近に集中しており、特に和賀郡西和賀町では総世帯の29.1%が高橋さんと、驚異的な高橋さん率である。

また、西磐井郡平泉町では人口の20.1%が千葉さんであり、遠野市では人口の23.8%が菊池さん、10.8%が佐々木さんと2つの苗字で人口の30%を占めている。ちなみに遠野市域のハローページ(岩手県 釜石・遠野地域版 12年1月発行)では1ページの全てを菊池さんが占めるページが5ページ、全て佐々木さんのページが2ページある。

以下は占有率4.5%以上5%未満の苗字である。

秋田県

秋田県は人口比で最も「佐藤」さんが集中している県であり、人口の7.8%程を佐藤さんが占めている。やはり全県的に多いが、特に南部へ行くほど佐藤さんの比率が非常に多くなっていく。2番目に多い「高橋」は東南部の仙北郡や雄勝郡横手市湯沢市などで特に集中している。

雄勝郡東成瀬村では人口の25.2%を「佐々木」さん、20.8%を高橋さんが占めているなどものすごい勢いで苗字が集中している。

秋田県は平成の市町村合併により多くの市町村が合併し、東北地方で市町村の数を最も減らした県であるが、それでもこれほどの占有率があるのは驚きである。

以下は占有率4.5%以上5%未満の苗字である。

宮城県

宮城県でも「佐藤」の独壇場である。大都市・仙台市を抱えているものの人口の7.1%ほどを佐藤姓が占めている。宮城県では「佐藤」が特に多いという地方はなく、全県的に概ねまんべんなく分布している。

また、「高橋」「佐々木」などのおなじみの面子も勢ぞろいである。高橋はまんべんなく分布しているが、佐々木は北部に固まっている。千葉や菅原なども北部の苗字。牡鹿郡女川町や石巻市付近など、沿岸部に多い「阿部」姓も目につく。南部には「斎藤」などや、福島県に多い「佐久間」や「八巻」「半沢」なども見られる。

大崎市から仙台市にかけては「早坂」姓が多く、特に加美郡では非常に多くなっている。

以下は占有率4.5%以上5%未満の苗字である。

山形県

山形県も「佐藤」は総世帯の7.3%を占めており、佐藤の独壇場である。全県的に多いが、特に北西部に集中している。やはり「高橋」も集中している。

しかし、秋田県宮城県と違い、山形県は佐々木姓が少ない。県の世帯数順位29位であるし、県全体の占有率も0.4%ほどだ。代わりに多いのが「鈴木」で村山地方を中心に分布しており、特に西村山郡大江町で占有率10.6%、西村山郡朝日町で占有率11.4%となっている。

また、「五十嵐」や「本間」など、新潟県で多い苗字も多く見える。西村山郡西川町の「奥山」は全国の奥山さんの内、21%ほどが山形県に集中している。

以下は占有率4.5%以上5%未満の苗字である。

福島県

福島県でも「佐藤」が多いのは変わらないが、占有率は5.7%ほど。全県的に多いが、特に伊達市伊達郡付近では占有率10%を超える市町村が多い。2位には「鈴木」が入っている。特に耶麻郡から河沼郡にかけてや、南部に集中している。

福島県浜通り中通り会津と3つの地方に分けられるが、それぞれ苗字分布も違う。たとえば、福島県の「わたなべ」と発音する苗字は「渡辺」も「渡部」も多く分布しているが、渡辺は福島市から双葉郡にかけて北西から南東にかけての(地図上で見ると)斜めのラインにそって分布しているが、渡部はほとんどが会津地方に分布している。渡部は浜通りの相双地域にも比較的多めに分布しているが、相双地域では「わたのべ」と読むこともある。

6番目に多い苗字「菅野」は福島県に全国の菅野さんの30%近くが在している。全国的には「すがの」と読むことが多いが、福島県の菅野さんは「かんの」「すげの」「すがの」と3通りの読みがある。

福島県で一番菅野さん率が高い伊達郡川俣町では99.8%ほどが「かんの」さんであるが(ハローページ 福島県福島地域版 2013年1月発行より)、本宮市では97%ほどが「すげの」、その隣の二本松市では「すげの」さん約64%、「かんの」さん約33%、「すがの」さん約3%と、県内でも読み方がバラけている(ハローページ 福島県二本松地域版 2013年1月発行より)。

会津地方の南会津郡では「星」姓が非常に集中しており、南会津町下郷町檜枝岐村で占有率10%を超えている。特に檜枝岐村は、村民の40%が星姓であり、残りの37.7%が「平野」、12.6%が「橘」と上位3姓で村民の約9割をカバーしている。確かに檜枝岐村の人口は少ない(600人ほど)が、これほど苗字がかたよるのは珍しい。

以下は占有率4.5%以上5%未満の苗字である。

新潟県

新潟県は苗字分布が東北地方と似ているため、東北地方と一緒に解説する。

一番多い苗字は「佐藤」だが、占有率は3.3%ほど。東北地方のように極端に多くなっているわけではなく、2位の「渡辺」は占有率2.5%ほどで1位と2位の差にそれほど開きがない(あくまでも東北地方と比べたら、であるが)。

新潟県は平成の市町村合併によって全国で最も市町村の数を減らした県の一つであり、市町村ごとに見てもそれほど集中している苗字がない。その中でも離島の岩船郡粟島浦村は合併を免れ、「本保」「脇川」「松浦」の3姓で総世帯の66.4%を占めている。その他南魚沼郡湯沢町北蒲原郡聖籠町岩船郡関川村など平成の市町村合併を免れた自治体で集中している苗字が多い傾向がある。

佐渡市には「本間」姓が非常に多く、2位の「中川」姓の2倍以上が存在している。本間が占有率6.6%で、中川が占有率2.6%というところを見ると、佐渡での本間姓の多さが分かるだろう。

以下は占有率4.5%以上、5%未満の苗字である。

参考文献

以下はこの記事を書くにあたって、参考にした書籍である。ぜひ購入して、もしくは図書館で読んでみて欲しい。